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伊坂幸太郎のおすすめ小説5選|初心者向けの作品から映画化された名作まで厳選して紹介

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僕が小説を読むようになったのは、大学3年生のとき。
本なんて漫画しか読んだことのなかった僕が、友達に勧められた(というか「良いから読め」と無理矢理貸してくれた)ある小説を読んでから、読書のおもしろさを知った。

そのきっかけとなった小説が伊坂幸太郎の「バイバイ、ブラックバード」
読み終わった翌日には、近所のブックオフに直行して同著者の文庫本を買い漁って、読み漁ったのを今でも覚えている。

そして先日、ずっと読めていなかった「サブマリン」を読み終えて、2016年までに刊行された伊坂幸太郎作品を全て読み終えた。(デビュー作「オーデュボンの祈り」から「サブマリン」まで)

読破記念として(?)、今回は伊坂幸太郎を読んだことのない人に、自信を持っておすすめできる作品を5作ピックアップして紹介します。
少しでも気になる作品がある方は、これを機に是非手に取って読んでほしい。

もちろんネタバレなしなのでご安心を。

チルドレン

「俺たちは奇跡を起こすんだ」独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、なぜか憎めない男、陣内。彼を中心にして起こる不思議な事件の数々――。何気ない日常に起こった5つの物語が、1つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。ちょっとファニーで、心温まる連作短編の傑作。

伊坂幸太郎、まずはコレ

伊坂作品なにから読もうか……って悩んでる人には、まずこの作品を勧めています。
5つの短編で構成されており、スペクタクルもないので、普段本をあまり読まない人でも取っ付きやすいかと。

連作短編とはいえ各編には共通した人物が登場し、時間軸がストーリーによって前後します。
著者自ら「短編集のふりをした長編小説」と称しているように、短編かと思いきや一つひとつの物語が巧妙にリンクしていき、最後にはまとまった一つの物語として気持ちよく読み終えることができます。

伊坂作品ならではの個性的なキャラクター、独特のセリフ回し、散りばめた伏線をテンポよく回収する精緻なプロット。
短編ながら伊坂ワールドを存分に楽しめる作品。

また本作に登場する陣内という人物。
社会を斜めに見た、アイロニックな台詞が多い彼ですが、伊坂作品にはしばしばこういった人物が描かれます。
この人物を「鼻につく」と好きになれない人は、他の伊坂作品も楽しめないかもしれません。

最近刊行された、続編「サブマリン」も安定のおもしろさでした。

陽気なギャングが地球を回す

市役所で働く成瀬、喫茶店主の響野、20歳の青年久遠、シングルマザーの雪子たちの正体は銀行強盗。現金輸送車などの襲撃には「ロマンがない」とうそぶく彼らの手口は、窓口カウンターまで最小限の変装で近づき「警報装置を使わせず、金を出させて、逃げる」というシンプルなものだ。しかしある時、横浜の銀行を襲撃した彼らは、まんまと4千万円をせしめたものの、逃走中に他の車と接触事故を起こしてしまう。しかも、その車には、同じ日に現金輸送車を襲撃した別の強盗団が乗っていた。

個性的なキャラクターによるハイテンポ活劇

“強盗団の逃走車と接触事故を起こした相手が別の強盗団だった”
あらすじを読んだだけで僕は心惹かれた。

内容は特殊な能力をもった4人の強盗団によるクライムノベル(=犯罪小説)。
クライムノベルとはいえ、全体的にコメディタッチで描かれており、伊坂作品の中でもエンターテイメントに徹している作品。

本作の魅力は、軽妙なストーリーはもちろんですが、なにより登場するキャラクターたちにあると思います。 彼らの会話や行動がいちいちおもしろい。いつの間にか愛着が湧いてしまって読み終えるのが惜しくなる。
軽快なトークが多いのでテンポよく読み進められます。

またこれは伊坂作品全体に通ずることですが、大掛かりなどんでん返しはありません。
ただ小出しにした伏線を丁寧に回収していく。それがすごく爽快で痛快。

本作を楽しめた人は、続編の「陽気なギャングの日常と襲撃」「陽気なギャングは三つ数えろ」も是非。

マリアビートル

幼い息子の仇討ちを企てる、酒びたりの元殺し屋「木村」。優等生面の裏に悪魔のような心を隠し持つ中学生「王子」。闇社会の大物から密命を受けた、腕利き二人組「蜜柑」と「檸檬」。とにかく運が悪く、気弱な殺し屋「天道虫」。疾走する東北新幹線の車内で、狙う者と狙われる者が交錯する――。

疾走する新幹線の中で巻起こるノンストップエンターテイメント

木村、王子、蜜柑と檸檬、天道虫……各々がやるべきことを抱えて乗り込んだ東北新幹線が舞台。
登場人物ごとに視点が切り替わる、伊坂幸太郎が得意とする群像劇となっています。
「グラスホッパー」の続編とされていますが、主となる登場人物は違うので、独立した作品として楽しめます。

登場人物一人ひとりの行動が、見事に絡み合って物語は二転三転していきます。
先の読めない展開に、疾走する新幹線という閉鎖的な空間が相まってドキドキハラハラ。
特に後半の引き込みは凄まじく、ページをめくる手が止まらなくなります。

おなじみの個性的なキャラクターに、クセのあるセリフ回しはもちろん、なにより本作は伊坂幸太郎の卓越した物語構成力に驚嘆します。

先に勧めた「チルドレン」「陽気なギャングが地球を回す」とは違い、人はたくさん死にます。少しバイオレンスな描写もありです。

夜更かしして読みきって、翌日寝坊して大学の講義に遅刻したのは良い思い出(おい)。

アヒルと鴨のコインロッカー

引っ越してきたアパートで出会ったのは、悪魔めいた印象の長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。彼の標的は―たった一冊の広辞苑!?そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか僕は決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだ!

過去と現在が交錯して解き明かされる真実

過去(2年前)と現在の二つの時間軸によって物語が構成されています。
構成としては珍しいものではないですが、本作はある程度読み進めても二つの時間軸の繋がりがあまり見えてきません。
終盤までは過去と現在の物語が平行して進んでいきます。

それゆえに先が気になって、ページをめくる手が止まらなくなる。
そしてラストで全てが繋がった瞬間のカタルシス。
「アヒルと鴨のコインロッカー」というタイトルの意味も、最後まで読み終えることで知ることができます。

少し切ない終わり方ではありますが、読んで良かったと思わせてくれる作品です。
ハッピーエンドを好む方にはおすすめできないかも。

バイバイ、ブラックバード

星野一彦の最後の願いは何者かに“あのバス”で連れていかれる前に、五人の恋人たちに別れを告げること。そんな彼の見張り役は「常識」「愛想」「悩み」「色気」「上品」―これらの単語を黒く塗り潰したマイ辞書を持つ粗暴な大女、繭美。なんとも不思議な数週間を描く、おかしみに彩られた「グッド・バイ」ストーリー。

心温まるストーリー、読後の余韻の心地よさ

僕が本好きになるきっかけとなった作品なので、”思い出補正”入っちゃってるかなと思い、この記事を書くにあたって読み返した。
結果としてはやはりおすすめしたい作品だったので、5選に入れさせていただいた。

主人公と5人の恋人との別れのエピソードに最終編を加えた全6つのショートストーリーで構成されています。
5股男が恋人に別れを告げにいくというなんとも奇天烈な設定だけれど、読んでみるとどのエピソードも実に心地好いストーリーに仕上がっている。

あざやかなキャラクター造形は相も変わらず、一人ひとり登場する時間が限られているのに、5人の女性のキャラが非常に映えています。
また本作で強烈な印象を与えるのが異形のヒロイン「繭美」の存在。
粗暴で下品な大女が、星野と過ごす数週間でどのように心動くのか、注目して読んでほしい。

僕はこの作品の「終わり方」が最高に好き。
個人的にあのラストシーンは、伊坂作品史上最高の名シーンだと思ってる。

まとめ

以上、伊坂幸太郎のおすすめ小説5選でした!

正直、あれもこれもおすすめしたい状態に陥って、選定するのにとても苦労した。 (特に「終末のフール」「砂漠」「死神の精度」「アイネクライネナハトムジーク」を入れれなかったのは苦渋の選択でした) それほどまでに、どの作品も素晴らしい。

ただ今回は伊坂幸太郎作品を未読の方に向けて、読みやすく、伊坂らしさを存分に味わえる作品をピックアップしたつもりです。
ここに挙げている作品を一度読んでみて、もし自身に合うようであれば他作品も是非手に取ってください。
どれもおすすめです。

以下、「バイバイ、ブラックバード」の巻末インタビューより抜粋

ー伊坂さんが考えられる「自分らしい小説」とは、どういうものなのですか?
伊坂:あんまり分析すると味気なくなってしまうかもしれませんが、僕なりに考えるところでは、ちょっと変わったキャラクターとそれに振り回される人がいて、登場人物たちのやりとりが楽しくて、いろんなところに張ってある伏線が少しずつ繋がっていき、要所要所で「ああ、そうなんだ」とはっとする感じ、というところでしょうか。それが僕らしさ、僕自身がそう思っていると言うよりは、多くの読者が望んでいる「僕らしさ」のような気がします。